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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
一筋に伐りひらかれた樹林の下に、なまなましい土が盛られて藪に消えていた。地に敷きつめた草の藪だたみと空を蔽った樹木の繁り葉と――その葉のうらにそれとなく漂っている冷気が季節の秋を吐きだしていたのだ。そう云えば、どこか黄ばんだ緑であった。わくら葉のようなものが空から舞い落ちていた。
「これがトウベツ」
「そう、これがあの、待ちに待ったトウベツ」
そして、その奥ふかく――およそこの原野の中央と思われるオンコ樹のあたりに――彼女らの男たちは控えていた。十数日を野や山に伏して、ひたすらこの地点まで、と、一図に働き、遂に成ったあとのあの空漠とした疲労をお互いに感じあって。
そこだけの一廊を取りあえず伐木して、下草を薙ぎ払った。それが主君邦夷の来着を待つ用意であった。
ほッと明るいその場所に出たのだ。そして、何日ぶりかに出あった男や女であった。けれどもどう云ったらいいのだろう。はるかに眼を見あわせて、あそこにいた、あそこに来たと認めあい、そのまま眼を外らすのだ。
捧げて来た神殿は東に向って、紀念すべきオンコ樹のもとに安置された。この巨木の蔭に置かれて、神は痛々しいほど小さく見えた。