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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
少し傍らに寄って、邦夷がその前に立った。左には阿賀妻謙、右には相田清祐が白光りのする頭髪を風になびかせた。それに向いあう形で、家中の面々はそれぞれ自分の位置に佇立した。更にそのうしろに、女どもは草ッ原を踏みつけ、半身は草に埋もれ、おのずから定まった場所に立つのであった。
彼らの家中の四十何戸、百何十人かはここに立った。それにしてもこれは宏大な原野であった。草葉の蔭に背丈を没して、不意に彼らは眇とした存在に化したのだ。
邦夷は黙って立っていた。人々は彼の言葉を待って見つめていた。そのうちに彼らは、主君邦夷の笠の緒が垢によごれて黝んでいるのを発見した。
これは全く発見であった。彼らは目を瞠った。もっとよく確かめたかった。けれどもそのとき邦夷の表情が動いた。黒い翳が顔を流れた。
家中のものは忙てて眼を移した。そこには阿賀妻がいた。彼のそげた頬には無精ひげが風にしなっていた。
女どもが嗚咽した。だが彼女らの泣き声は、草藪の底を流れるトウベツ川の瀬音にかき消された。川の水は、辛うじてここに辿りついたこれらの人間が、あんなに困苦して穿った路とは反対に、淙々と自分の路を流れて行った。