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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

最初に、男と女の間にそれから親と子の間に――そして、彼らの邦夷との間に起った共感もこれと同じものであった。そのときまでの困苦がこの瞬間を幸福ならしめた。実際辛苦もどこかに感じながら、しかしほんとうの心は、ようやく自分らの死に場所を――誰にも干渉されぬものとしてこの足裏に踏ンまえた安心であったろう。いろいろ考えているうちに彼らはだんだん自分の幸福を胸に熱く感ずるのであった。その反面には、郷里に残して来た同僚たちのことを考えていたのだ。――あそこでは、あのとき彼らが受けた圧迫がまだ続いているであろうと思われた。住む家も奪われた彼らはその後どうしているであろうか。とにかくこれで生きのびて行ける――と、そういう自信を捉えた彼らは、同じ運命に見舞われた七百名の家中を他人ごとならぬものに回想していた。

だから邦夷がそれを云いだしたとき、彼らは胸を叩いて賛成したのだ。

「そうとも、連れて来ておくンなさい、どんなに喜ぶことだろうか」

貸付けを得た原野は茫々として涯が見えなかった。わずかに一方北西のあたりにあたって、連亙した段丘が見えるだけであった。それさえここまで離れてしまえば、樹間をくぐった渓谷や急坂はうそのように思われた。