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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
と誰かが云った。そういう楽観した言い方は涼風のようであった。人々の肩のうしろで戸田老人が長い眉毛をぴくぴく動かしていた。「なんなら、――」と彼は腰を浮かして、きょろきょろして云い足した、「身どもが論判にあたるも苦しくない――」
人々は笑って「まア、まア」と云った。残念ながら、予定の通り、彼はそれを思いとどまった。
むなしい気位に、そんなに拘泥しなければならないのか。日毎に体制をととのえて行く新しいあちらの権力は見えないのだ。すッぽりと抜けて来て、抜けざるを得なかったあの日の感慨をいまだに湛えていた。
「おそれながら――」と阿賀妻は何かいらいらして云った、「善は急げで明早朝――サッポロまでお伴いたさせて頂きます」
そう云い切るときに彼の口調は独断めいて響くのであった。よく考えるとそれは、梃子でも動かぬ理づめになっていた。しかし彼が云うと何か重苦しく暗いのだ。
翌朝早く彼らは出かけた。まだ秋の夜がそこえらに漂っていた。水霜のおりた空気は肌にしみるのだ。しばらくは吐く呼吸も白くもや立って見えた。
主従はだまって歩いた。何となく不機嫌であった。寝不足だけでは無かった。