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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
そうして歩いて行けば、どうでもぶっつからねばならぬものがある。それがひどく手剛く感じられた。
しかしイシカリ川の水は、朝もやの底にとぎれとぎれに灰白色に光っていた。明るんで来た空が映るのだ。凪ぎきった川の面では、ゆたかな水がたぷッたぷッと鳴っていた。そして、とてつもなく遠い原野の彼方から、ぷすッと穴をあけたように、一条の黄ばんだ光が閃めいた。それが、うすれた川霧の対岸で、木肌も白いあの税庫にぶっつかった。照明したのだ。
「あ!」と誰かがうめいた。
誰でもよかった。渡船のなかに棒立ちになって、先導の阿賀妻も邦夷も、彼の伴をして来た家中のさむらいも従僕も、陽光に染めあげられる板の壁をながめていた。
そこに新しい税庫が出来たように、川の向うの官に近い土地は日毎に変っていたのだ。この道が、先日――と思われるが、実は一年半の時日を経ていた――彼らが辿ったあの踏み分け道であったろうか。あのときはまッ暗な密林であったが、今ではひらけた原野のなかにぽつりぽつりと農村が見えていた。棟のあたりに青い煙を棚曳かしていた。人が棲みついて炊いでいることを語っているのだ。
仔細に見ると、ふた月ほど前にここを通った阿賀妻でさえ目新しい家に気がつくのだ。