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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

田の面のあちらこちらに散在し、その腰を折り曲げた恰好にも、ちっとも変ったところはないのだ。

「ああ、これは平和じゃ――平和そのものじゃ」

大沼喜三郎がそう云った。けれども、誰もそれを突然と感じなかった。同じ感慨に耽っていたからだろう。お長柄組にこの人ありと知られていた濶達な大沼喜三郎は、深い呼吸を吐きだして、人々の思いを言葉にしたに過ぎないのだ。彼の胸にも何かひりひりと、氷のひ割れるような裂音が伝わっていた。

右顧左眄し、周章狼狽した自分たちは、天地も顛動する大きな変化に身をさらわれた。しかるに、その同じ日、この同じ土地に、ひたすら農夫であったものには、昨日にかわらぬおだやかな日がつづいていたのである。武士が無用になったとき、彼らの存在は地上から消えうせて、そして、その下にあった農民が、とりつく島もない頑固げな姿をあらわしたのであった。――みずからを無用の人間と観ずる寂寞ほど深いものはあるまい。踏みなれた懐しい道を、足は郷里に向って急いでいたが、話すことも無いらしかった。

その人に仕えること――それに生き甲斐を感じている従僕だけは異っていた。旅の用具を背負い荷にしていた彼は、前に出て、「一足先に――」