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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

と大股に急ぎだした。

一行の先に、たったと、無我夢中に離れて行った。

やがて城下の町が斜陽のなかに、黒く、逆光線を浴びて見えて来る。いくらか爪先あがりの道はやっぱり白く乾き、古びた屋並みのなかにもぐっている。笠のふちに手をかけて、改めて見返し、恥らうような身内のほてりを覚えた。

――供まわりもないこの道中を従僕は人知れず泣いたのだ。自分の采邑地だった所を歩きながら、誰一人迎えに出るものもないという事態に、彼のはらわたは煮えくりかえった。知らないことは事実なのだし、知らせる術も無かったのだ。それも承知しながらしかし彼は、「殿――」と云い、「家来――」というならば、夢枕か、虫の知らせででもこの一行の近づきつつあるのが判らねばならぬと思った。だが遂に判らなかった。一人もまごころある家来なんかはいないのだろう。だからと云って、このまま、百姓が馬市から帰って来たように城下にはいることが出来ようか。彼は決心して駈けぬけた。誰れ彼れ見分ることももどかしく大声に叫んで走った。

「おかえりだッ、お帰りだア――お殿さまのおかえりだ」

斜めになった陽光が、家々の廂にきられ、黒い格子戸ごしにぼんやり射し込んでいる。