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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

そしてこれこそは表向きのことであった。自分のことは第二第三にして、先ず神山を呼ばねはならぬと思った。それから近しい血つづきになっている親戚や姻戚があった。それにも順序によって使いを立てた。この土地にいる重だった家臣にも一応通じておかなければならない。

時ならぬ賑いが古びたお館をふいに明るくした。奥方は勇気に満ちてあれこれと淀みなく指図するのだ。この日のため、主君のお帰りになる日のために――ほとんど二年に近い留守の毎日毎日を、こういう手筈を考え、ととのえていたのかと思われる。部屋々々に灯がはいって、お館は生きかえったようであった。この手狭な家に主を迎えて、佗しく思わせまいとする精一ぱいの心遣いであった。

その昔、当家三代の宗親公が隠居の場所として建てたこの一棟は、盛大な日は無用の長物として見すてられたものだ。邦夷らの棲居がここに、――ここだけに限られようとは夢に見たことも無かった。憐れみの一片が投げあたえられたのであったかも知れない。兵馬倥偬のあいだには遊びに来る子供も見えなかった。人の住んでいない家はあれ果てた空気を漂わした。そこへ、ある日邦夷らの家族が移って来た。