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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
無礼講らしく憚りなく振舞っていた。先ず自分どもの仲間にこの愉快さをわかち、やがてそれでは満足しきれなくなって、よろよろと立ちあがるのであった。昵懇を重ねねばならぬと思った。片手に盃、他の手に徳利の頸をつかんでいた。袴のすそを踏んで斜めに傾きながらとッとと踏みとどまっていた。彼は座のまン中を、膳や盆の並んでいる間をたくみに避けて、次第に近よって来た。酔いのまわった身体の芯に、一筋だけ白く光って、胸の思いが通っていた。初めあたりのものは気にも止めなかった。彼はよろけながら、重役たちの前に来てしまったのである。もはや注意もとどかなかった。気がついたものが驚いた。彼はその男の後姿をはらはらして見つめていた。
その席を見定めておいたように、彼はまッ直ぐに進んで阿賀妻の前にどさッと坐った。持って来た盃を手酌であおって、すッと差しだした。骨太の手にしみが浮いて、酒を吸った血管がふくれ上った。老人の皮膚であった。篠崎彦助であった。
「ご家老――ひとつ」
「身どもですか」と阿賀妻はそれを受けた。
彼は驚かなかった。あわててもいなかった、――すべて覚悟の上なのだ。家中のものの誰れ彼れが彼を随意につかまえて、彼らの云い分を喋りちらし、あれこれと問い訊す。