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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

直接には黒田清隆であったろう。どこからか命知らずの硬骨漢があらわれて躍りこむかも知れなかった。彼の生命を覘わぬとも限らなかった。そのためには、羅卒を配備し守衛を増員した。

「あなたもその警戒にひっかかったわけでした」

「それで、堀どのはどういう態度を取られた?――」

「それは、長官どのとああ云う特別のご関係にあるお方のことですから――今回は、うわさによれば奥方を東京で迎えられて――はは、これは上官の私事をあばくことになる」

属官は口をにごした。

あわただしく暮れていた。

芝から神田まで、――道筋には、二つの権力の入れかわりが軒並みそのまま剥きだしになって、しかも双方とも、平然とその存在を不審がっていないのであった。ランプとあんどんと、ある店では、一つの家で二種の灯り取りを使っていた。

その宿について属官はたずねた。

「お帰りか?」

「さきほど」と帳場の主人はきせるを叩きつけた。

「誰か見えられとるか?――」

「洋服屋が来とってね」

主人はそう云って、煙管の吸口をがちがち噛んだ。けがらわしげに附け足した。

「こんどは陸軍将校の制服とかじゃそうな、そうまで毛唐の真似をせんでも、さ、――」