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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

二

途中に一泊した。ひかれるうしろ髪の痛さはうすれた。翌日の夕暮れには港に着いた。

次の日は乗船の予定であった。

明るく晴れあがった日であった。眼が疼むほど青い海の彼方に煙が見え、やがて、黒い蒸気船が見えた。邦夷はまた先頭に立った。この陸地にあるいは、一刻もとどまりたくなかったのかも知れぬ。彼は勝手知った船室のなかにどんどんはいって了った。

「すべて予定どおりに捗りました、そうも云えます、とにかくわれらも行ってみましょう」

大沼喜三郎はそう語りおわって船室の方に歩きだした。

阿賀妻は足を踏みしめた。

二

甲板の下にある船室は、上から降りて来るものを立ち竦くませる。足の踏みばも見当らぬほど、不意に視界が暗くなる。間もなく仄白い光りが見えて来た。船腹にある小さな窓々が浪の揺ぎを映していた。そして、一枚ずつうす膜がはがされるようにその場の様子が見えて来る。

こびりついた潮のにおいが、人間を積みこんでむッと生臭かった。

乗り組んだ人々は、変ったこの環境をまだおちおち見ようともしなかった。取りあえず腰を落ちつけるところを占有しなければならぬと焦るのだ。立ったり跼んだり、女どもは何か喚き散らしていた。