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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

「どうでございますえ?」

女はあたりを見まわした。あちらに挨拶を送ってから、高倉の母に目をとめて云った。

「初産は晩れますゆえのう」

しかめた顔にうすい瞼が糸のように細くなっていた。唇の色だけが赤くて、その初老の女を怖しい形相にしていた。雪に反射して険しいほど強い色であった。朝の陽がまともに照りつけている。

「いつでもお手伝いにまいりますゆえ」

「はい、はい、それにしても、いずれは今明日のこと、この雪晴れの間に、祐吉めをちょいとトウベツまで走らせようかと存じます、せめては、戸田さまにでも――と思いまするが、のう?」

いよいよとなれば、医療の心得あるものが傍らに欲しかった。医術だけではない。でんと腰をすえる男が身近に控えていて欲しかったのだ。

産期の近い玉目トキに、寡婦になった高倉の母を附き添わしたのは家中の意志であり彼女の意志でもある。トキ女にとっては、生れて来る児は愛する夫の肉体につながっていた。それを考えると、むず痒いような愛着をおぼえるのだ。胎児ははじめから男ときめて、これで玉目の家も相続されたと何か肩の荷がおりる思いであった。それが名実ともに家を嗣ぐのは、十五年二十年のちのことである。