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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
「兄はこれからトウベツにまいる、と、母さまにそう申して、ご用を、そのほかにはありませぬか、と、伺ってまいれ、都合によって――と、商人? それなる書状はどこからまいっとるのか?」
そのものは俯向いていた。雪ぐつを履いた足にカンジキを括っていた。深い雪の上を汗みずくにぬかって来た彼には、この道具を、そら、と、貸した男に、思わぬ温かみを感じた。そういう好意を、投げつける仕草でしか現わせないこういう階級の率直さが胸に来ていた。彼は腰をのばして、袱紗に包んだ懐中の書状を取りだした。
それは、長い道中を気遣ったためであろう――黄ばんだ厚い封書は、目ばりよりもぴったり油紙に包まれ、それを透して、迷うことのないように、はっきり読み取れる肉太な字が書いてあった――「北海道開拓使石狩役所管下シップ、伊達邦夷支配地 相田清祐殿」
改めて差出し人を見るほどのことも無かった。謙と一字書かれて――これは、ご家老阿賀妻のたよりなのだ。これこそ、今日か今日かと待ちこがれていた生れ故郷のたよりなのだ。
「行こう!」
高倉はそう叫んだ。書状の包みを鋸屋につき出した。彼は、今では、もう敢えて自分が持たなければならぬ必要も感じなかった。