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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
五
「お持ち下さい、だんな――」と彼は云った。
「いや、これはその方からお手渡しすべきもの――おい、金作! 阿賀妻さまから書面がとどきましたによって、これから直ちに出かけます、と、よいか――うん、うん、待っておるとも、身支度をしながら、承って戻るおぬしをここで待っておる、いそいで、いそいで――」
五
まだ午の刻には間があった。
雪あがりの午前の空は、みごとなほど晴れていた。天はあくまで碧色で、地は涯ない白さであった。それでも万一のために乾飯を腰につけ、磁石を前帯にはさんでいた。
この道は、高倉にとっては馴染み深いものであった。彼らの手でこしらえたものであった。雪が降ってからも一二度は往復していた。ただそれらの場合には、彼は大人のあとについていた。或いは踏みつけられた足跡に導かれていた。
それにしても、道の屈折、山のたたずまいに関しては、目をつぶっていても思い浮ぶほど知っていた。たとえ今日の行程が、鳥の足型もない全くの新しい雪にしても、別段おそれることは無い。結局は、誰かが最初に足を踏み入れねばならぬのだ。彼でなければ、彼の家中の誰かがこのあら雪を踏み分けねばならぬ。