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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
切り抜けるだけであった。あたりがほの暗くなったのは、それほどの時間がすでに過ぎたのか、陰鬱な空が垂れこめたのか――多分、そのどちらでもあったろう。やがて樹氷のくだける音は、連続した風音のなかに消えだした。峰づたいに轟と鳴った。低い谷間に向ってもんどり打った。樹々は一斉にはためいて雪をふるい落した。白い雪げむりは掻きまわすように捲きあがった。それは風に殴られて横だおしに頽れた。
それにしても、あのほがらかなひる前の天気が、二三時間隔てて、前触れもなく暴化て来るとは考えられない。これは山峡の気圧によるものであろう。あとはまたけろりとしているあの一時的の旋風であろう。
「もう一呼吸だ」と高倉は叫んだ、「この谷さえぬけたならばこちらのもの」
鋸は鋼鉄の板であった。何故か重ねてすわりよく背中に担うと、それは風を受ける頑固な帆になった。行商人は立って歩くことは出来なかった。彼は手と足と――四肢をつかって背中の帆を伏せながら雪の上を匐っていた。
「ついて来い!」と高倉はまた叫んだ。
すべって起きあがり、転んで這いまわるのだ。山峡にかさこそと降り積った雪は手ごたえなく軽かった。