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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
その上に陽が照っていた。けれども今のところ、この厚い凍氷には、まだ陽光は一指も触れることが出来なかった。せいぜい雪を溶かして、底知れぬ深さを思わせる半透明の氷面をむきだしにしただけであった。
冬の間、人々はこの凍氷の上を野と同じように歩いた。ゆたかな水はそれだけ厚く頑丈に凍結した。イシカリの原野を二つに区切るこの大河も冬は眠って了うのであった。水は底ひくくもぐって鳴りをひそめた。その上に雪が降り積っていた。川も全く姿をかくしていた。ここに川があろうなぞとは想像もつかないほどであった。
そしてどこからともなく春の息吹きが漂って来る。すると川はむっくり目をさました。それは先ず、雪の原野が一きわ低くなって、うねり曲った川筋を見せることであった。それからまぎれもなくここが川だと云わぬばかりに氷面をさらしはじめる。その下を流れる水の音が聞えて来る。ぶきみな音を、うおンうおンと響かせる。閉めつけた凍氷を呪うような叫びが聞こえる。やがて春は、下から、地のなかからも来るのであった。そのときまでは、まだ人間は渡ることが出来た。
門田与太郎はその上で云った。
「帰りまでは持ちましょうねえ」