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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
三
阿賀妻は砂を蹴立てた。気を立てた女が云い辷らした言葉とは云え、人々の心が白々しく見えて来るのだ。
「はい」と彼女は唇をかんだ。
「玉目三郎どのは、な――」と彼は云った、「おてまえの夫でござろう、われらを裏切るような人物ではありません、そのことは、殿よりも篤とおはなしがあった筈じゃが」
「ございました――けれど」
「今日まで帰って来られぬのは、あの出水に無理をなされて、思いがけない――」
女は突然、跳びあがって叫んだ。
「それではどうしても死んだのでございますか、あの、水におぼれて?――あたくしの玉目が? 水におぼれて」
顔をおさえて彼女は走った。その姿が彼らの聚落の草やぶに消えてしまうまで彼は見送った。いずれにせよ、彼女は、とにかく生きていて貰いたかったのだ。それだけであった。
三
目をひるがえすと、青い海のなかまでそのイシカリ川がのさばっている。年中澄むこともなく泥土に汚れている水は、先日来の氾濫のなごりを見せて一層重々しく濁り、一層猛々しく押しだして行った。海水とは容易に混ろうとしない。はっきりけじめをつけた異質の水は、当分のあいだ、海の中にその川を描きわけて見せる。