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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
土地のことを切り出しているのである。
「官には、あの土地をご存じでしたか?」と阿賀妻は云った。
思わず相手を直視するような強い言葉になっていた。彼ら布衣のものが、草木を押しわけ、密林にさまよい、あげくの果てには有能な仲間を一人犠牲にまでしてやっと探しあてた土地でありながら、それがこんなに無雑作に知られていようとは少からず心外であった。飢えに攻め立てられた最後の二日は、屠った野獣の肉に喰いついた彼らであった。習慣からであろうか、何か生臭く感ずるいまいましさも、その土地の肥厚さを見れば慰められたのである。それが、最初の発見者たる彼らの手に帰するであろうという予想の下に。
「肥沃の原野と聞いておる」と、堀大主典は顎をしゃくった。
阿賀妻は使丁の出した茶をすすった。
「――と、いうのも、何も正確なことではないのだが」
やさしい眼をぱちりぱちりと瞬いて、今度は阿賀妻が聞き手にまわっているのである。掌の中で、虧けた茶呑みの陶器をいつくしむように撫でまわし、微笑をもって頷いていた。一ぱいの渋茶がすーっと胸をおちつけたようであった。
「はじめに目をつけるのは風の便りというものでしょうか、先年は兵部省の連中が入りこんだということで、そのものどもの見聞のまた聞きに過ぎませぬ、が、そうした痕跡はありませなんだか」