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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
「一向にも――」と阿賀妻は低く否定した。
「それというのも、会津降伏人の処分のためであったとか」
そう云いかけた役人は、ひょいと目をあげた。別に因果の連想があったわけではなかったが、云ってしまって、はッと気づいたのである。しかし阿賀妻は既に顔をそむけていた。彼こそそれは、ぴんと来た一言であった。その同じ原野に、わずか一年ほどの時間を経てまた別の降伏人がさまよわねばならぬ時代であった。取りも直さず自分らの姿であった。
「聞かせて頂きましょう」と大主典は本論にはいった。彼は卓の上に地図をひろげて及び腰になり、青く書きこまれた川の一本を人差指でおさえて、こちらをしげしげと見つめた。
「ご許可下さいますか」
「多分――」と云って、役人は阿賀妻の顔色の動きを見つめ、語気を強めて附け足した。
「尽力いたす」
「ではお聞き下さい」
阿賀妻は腰かけをずり寄せた。足許を踏みしめて一歩々々せまるように悠然と、袱紗さばきの音も見せず書類を取りだし、ひろげながら云うのであった。
「果せるかな、聞きしにまさる肥沃の土地でござった、巨木うっ蒼と天地を覆うとりました、蘆葦の茫々としげれることは咫尺を弁ぜざる有様、しかも、目の極まる限りは坦々とした原野つづき、その底を洗う清流はイシカリの支流なるわがトウベツ川でござった、水は掬してふくむべし魚介は捕え