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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
「どうです、もう一本、この藍地の手拭いを買っときなせえ、冬になったら何ぼになるだかわかりませんぜ、このホシはどうですえ、りっぱな紺だ、それからこの股引は、ね、釣が無えんだ仕方が無え、これで一両と負けとくさ」
阿賀妻は買物を一つかみに握って引きかえした。それ以上町屋の間に足をふみこむ気持の余裕を無くしていた。心のどこかでぶすぶすと燻っている火があった。身内に漲る熱っぽいものに足ははずんでいた。一直線に使庁の門をはいり、案内知った堀大主典の部屋にとびこんだ。
「まだ、戻られぬか?」
彼は、そのものの空席を見ながら誰にともなく云った。」
「どなたでしょうか?」
そう問いかえす一人の男に云った。
「よろしい身どもが探す」
彼は使丁室にはいった。荷物をまとめながら彼は云った。
「判官どのの部屋に案内いたして貰いたい」
彼は徐かにそれを云ったのだ。けれども使丁は聞きかえした。相手の変化に面喰っていた。
「なんでございますか?」
「拙者は伊達の家臣にて阿賀妻謙と申すもの、――岩村判官どのにじきじきお目にかかりたい、左様お取次ぎ下さい」
「はい、はい」
使丁は一足出てただちに引きかえして来て云った。