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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
そう来るだろうと予定していたように、その役人はがばッと立ちあがった。
「イシカリまでお供しましょう」
ふいと阿賀妻は相手の顔を見直した。別にかわったことも無かった。にも拘らず彼はのそのそ身支度をした。くそ落ちつきに落ちついて、ばか丁寧に荷ごしらえをしていた。
その間、根気よく、堀は玄関で馬を乗りまわしていた。改った身支度もせず、彼にとっては役所の延長のような気軽さであった。持ち前で眉根をしかめていた。漠然と横目を流した掴みどころのない表情で、癇の立った馬の背に乗ってぐるぐる廻っていた。やっと阿賀妻が出て来たとき、彼は馬上から、使丁に口を取られた他の一頭を示して叫んだ。
「お乗り下さい」
「さりながら――これは」と、草鞋ばきの男は躊躇した。
「他意ありません」
「それでは――」と、阿賀妻は手綱を取った。馬の首を揃えながら彼は聞いた。
「イシカリは急用でござるか?」
「なに、明日、税庫の建築につき、商人どもの工事請負に入札をいたす、本日はその敷地を検分しておくため、――何分とも商人ども増長いたし、困難いたす、しかし、阿賀妻さん」
そう云って馬を近づけられると、阿賀妻は手綱をしゃくって避けるようにした。