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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
(角助から、殺されたのではあるまいか?)
夜泣きの「当り矢」が、話していた――玉井が畳の上で死のうと思うても、そうは問屋がおろさん、といったという角助の言葉が、恐しく、思いだされた。
大庭春吉は、金五郎が、牡丹と蝶の彫青をした怪しい女と仲よくしていたことを知っていたが、それは口に出さなかった。
「それで」と、パナマ丸荷役のことを、くれぐれも依頼して、二人を帰した。
乱れた重い心をいだいて、マンは、家に帰って来た。すると、家の中に、誰かがいる。
夫かと思って、駈けこんだ。
「マン坊」
故郷の山奥の大川時次郎であった。
「これは、時やん」
と、さすがに、マンも、おどろいた。
「ようよう逢えたわい」時次郎は、満面によろこびのいろを浮かべて、「どんなに探したかわからん。マン坊に逢おうと思うて、田舎を飛びだしてから、北九州中を、足が棒になるほど、うろついた。よかった、よかった」
「まあ、そんなところに立っていないで、おあがり」
マンは、時次郎を、六畳の座敷にあげた。見なれぬ男を、七匹の猫がうさんくさい眼つきで、眺めている。
時次郎は、郵便局の詰襟服を着ている。いつも、この服装で、馬にまたがり、谷や、丘や峠を越えて郵便を配達していた。