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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
「危いですわ」
お京が、たおれそうになったギンの身体を支えると、
「酒くらいで、引っくりかやるドテラ婆と思うちょるか」
そういって、女侠客は、全身を大きくゆるがして、哄笑した。
金比羅神社の裏手に、臨時共同便所がこしらえてあった。そこは、断崖になっている。石段は三百段あるから、そこから落ちれば、無論、命はない。
ふっと、お京の胸に、悪逆の心が湧いた。
(素知らぬ顔で、崖の下に落してやろうか。死んだところで、酔余の果ての過失として、誰も、疑う者はないにちがいない)
すると、ギンが、急に、顔をあげて、呟いた。
「おんや、玉井の奴、なにをしちょるとじゃろか? 江崎満吉の子分と、喧嘩やっちょるのか?」
大鳥居から、狛犬の石像にかけて、「若松金物商組合」という、紺の幕が張りめぐらしてある。
そこのところで、金五郎が、四五人の遊び人風体の男たちと、なにか、いい争っていた。金五郎の方は、やわらかく話をしているが、相手は喧嘩腰だ。金五郎は、着物のうえから、玉井組の印半纏を羽織り、手に、一升徳利をぶら下げている。頬は赤いが、酔ってはいない。
このなりゆきを、心配そうに眺めているのは、金物商組合の人たちらしい。