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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

「追い返したんじゃ」

「どうして?」

「用がすんだからよ」

投げだすように、そういって、金五郎は、また、ごろりと、縁に転がった。放棄的な表情で、眼をつぶったが、急になにかを思いついたように、すぐに、くるりと、起きなおった。かたわらにある日本刀を二本、鷲づかみにして、立ちあがった。

「どこに、行きなさるの?」

「ちょっと、永田の親方のところに、行って来る」

裏口で、高下駄をつっかけていると、俊次が、ラムネを四五本、懐に入れて、帰って来た。客はもう帰った、お前たちが飲め、と、いい残して、金五郎は、番傘をさして出た。

雨に煙る黄昏の町を抜け二町とは離れていない永田の家に行った。

聯合組を番下げされた永田杢次は、貰った退職金で、ラムネ製造業を始めたのである。もともと懲罰的処分を受けたのであったけれども、情に厚い大庭春吉は、金五郎と話しあい、永田がメカケのサクと別れることを条件に、ラムネ屋を始めるだけの資金を都合してくれた。永田はそれを機会に、若松へ移住した。そして、同じ新仲町の、玉井組と眼と鼻の先で開業したのは、なるべく近くにいて、旧親方の面倒をみたいという、金五郎の希望にもとづいているのであった。