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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
まだ一度も話したことはなかったけれども、心の中では、もっとも信ずるに足る人、すでに、同志としての強い結合さえ感じていたのである。それだけに、怒りも大きかった。
(この若松は、なんという野蛮な暴力の街だろう)
しかし、安五郎は、それを恐れる心よりも、その理不尽を除去しなくてはならぬ、という強い情熱と勇気とを、若々しい胸にたぎらせているのであった。
「一目だけで、結構なのですが、……」
病院の玄関で、懇請したけれども許されなかった。
「どなたの面会も、お断わりして居りますから」
「それでは、これを……」
やむなく、見舞品を置いて、虚しく帰らなければならなかった。力のない足どりで、街の方へ引き返しながら、
(どうぞ、死なないで下さい)
と、心の底から祈った。
マンは、帰った次の日の朝から、三社詣りを欠かさなかった。氏神の白山神社、蛭子神社、金比羅神社の三社へ、早朝、日参をして、「お百度」を踏んだ。
まだ真暗な、深夜といってよい午前三時から起きて、まず、白山神社に出かける。百段ある高い石段を登る。鬱蒼たる森林が風にざわめき、高い杉のうえで、フクロウが鳴く。キョーン、と鋭い狐の声が聞えるときもある。