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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

「ちょっと」

他の傍聴者の邪魔にならぬよう、扉のところまで行った。

「あなたにお電話がかかっていました」

「どこから?」

「丸ノ内警察からです」

「どういう……?」

「あなたにそういえばわかるとのことで、……僕にはよく事情が飲みこめませんでしたが」

「般若の五郎という男のことではありませんでしたか」

「般若の?……いや、五郎とはいったが、……そうだ、大貫五郎とか、……」

「そうです。大貫五郎です。それが?……」

「あなたに身元引請けをして貰って、釈放するから、今すぐ、署まで来るように、伝えてくれとのことでした」

「今すぐ?」

「ええ、すぐでないと帰さないそうです」

金五郎は、時計を見た。眉が寄った。当惑した。十一時四十二分、吉田磯吉が指定した正午に近い。

丸ノ内警察署の裸ベンチのうえで、金五郎はしびれを切らせた。議会からまっすぐかけつけて来てから、すでに、数時間が経つのに、まだ、般若の五郎は釈放されないのである。面会もさせてくれない。

うるさそうに、

「もうすこし、待っていて下さい」

と、いうばかりだ。

仕方なく腰かけていると、たしかに、入れかわり立ちかわり、いろいろな人物が出入りして、この大都会の中央街にある警察署の多忙なことがわかる。