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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

青春

腹をかかえて笑いたい。しかし、顔は仏頂面になる一方だ。

「もう一本、あげましょうか?」

「いや、もう、ええです」

金五郎は、笑って、金を払った。財布の方は盗られてしまったけれども、幸い、小銭がポケットにすこしあった。ラムネ三本代を払うと、あとに、五銭。やっと、割引電車に乗れる。

洋服の泥を払い、身づくろいをして、表に出た。

なにごともなかったような、絢爛として頽廃的な浅草の雑沓。金五郎は、眼がちかちかし、眩しくて仕方がなかった。

「お京さあん……」

大声で、呶鳴ったら、聞えないだろうか。

金五郎は、不意に、赤面した。逃げるように、仁王門の方角に急いだ。

青春

「どうも、たいへん御邪魔いたしました。それでは、これで失礼いたします」

「まあ、もうすこし、ゆるッとなさったら?……まだ、雨も降って居りますし、……」

「いえ、この雨は地雨のようで、どうせ止みそうもありませんから、……親方、お暇いたしましょう」

「うん、そうじゃな」

マンと、大庭春吉とは、立った。

帆柱山の麓の高台にある藤本家からは、八幡製鉄所が眼下に望まれる。囂々たる音響と、濛々たる煤煙。その向こうには、無数に近い大小船舶の碇泊している洞海湾がひろがり、対岸には、若松の高塔山、石峯山、等の、山というよりも、丘陵の親分ほどの高地がつらなっている。