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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
「はい、八時を鳴らそうと思いまして……」
「わたしに撞かせてくれませんか」
「そうですか」と、檀徒総代のもの好きを笑いながら、「よかったら、どうぞ」
「八つ、鳴らすとでしたかな?」
「五つほどで、ええです」
金五郎は、鐘楼に登った。
高台になっているので、一望の下に、若松市街が見えた。いつも見なれた、住みなれた自分の街の風景を、金五郎は、日ごろとはまったく異った感慨で、しみじみと、見わたした。ちかちかと、眼にしみるようである。これが見おさめになるかも知れない。
吊り下げられてある撞木を、手にした。軽く反動をつけてから、力まかせに、梵鐘に打っつけた。
ゴワアアン、……
鼓膜が割れるほどのとどろきが、はねかえって来た。後は、ウォン、ウォン、と余韻を引いて、爽やかな鐘の音が、朝の空気をゆりうごかして、全市にひろがって行く。
金五郎は、なにか、胸のひらけるような気持で、二つ、三つ、と撞き鳴らした。
「うまいもんですなあ」
和尚が、笑って、見ている。
五つ撞いて、鐘楼から、降りて来た。
「玉井さん、今年も、組合の「川施餓鬼」をやりますか」
「やります」
「争議中じゃから、どうじゃろうか、と思って……?」