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さこく
鎖国
和辻 哲郎
日本の悲劇
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 443,306 字 · 875 页
家老であるから、いつも京都に来ているというわけには行かなかったが、祭日などには、一両人の伴をつれて夜のうちに十里の道を馬で飛ばせ、午前中に告解や聖餐をすませて、午後直ちに帰って行く。まるで一二里の所から来るような何気のないふりをして、骨折りを人に知らせないようにする。建築費の寄附なども率先して人より多く出したのであるが、それを秘して人に知られないようにしていた。或時、上京の節に工事場に大工の数の少ないのを見て建築費の窮乏を察し、宣教師館の一隅でこっそりおのれの帯刀の金の飾りを外して紙に包み、日本人のイルマンに託して行ったこともあった。そういう慎ましいやり方が宣教師たちを非常に感動させたのである。
岡山の近くの三箇の信者たちも勿論会堂の新築に協力したのであるが、その中で特に著しかったのは、三箇の城主の姉妹で、キタという武士に嫁していたフェリパである。この五十歳を越えた老夫人は、キリシタンの女子の模範であったといわれている。さほど富裕ではなかったが、会堂や貧者のためには物惜しみせずに愛の行をつとめた。病人を訪ねて慰め、心弱きものの信仰を堅めてやり、うかうかとしていたものは呼び醒し、争いがあれば調停する。