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あるはいまつのどくはく

ある偃松の独白

中村 清太郎

春雪写山行「旅」1940(昭和15)年4月<br>黒部川峡谷の話「山岳 第十二年第一号」1918(大正7)年2月<br>枯木の美と怪「国立公園」1952(昭和27)年3月<br>雪山と廃道「山 二巻二号」1935(昭和10)年2月<br>七面山冬ごもりの記「山小屋」1947(昭和22)年<br>黒部川初遡行の追憶「山と渓谷」1939(昭和14)年7月<br>大雪山あれこれ「国立公園」1955(昭和30)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 页

青空文庫

それで尾根は背※で左右に方向の違う面をもつから、周りを雪で塗りつぶすと、大体左右相称の浮彫りとなり、その面の乱れが、種の容れ物、手などを現わすことになるのだろう。だからかんじんな条件は、背※の高さ(周囲の雪の残る面からの)と周囲の面の均等さ、それに両者の高低比のある黄金律、というような点にあって、その上、高距、積雪の量など、ちょうどあの頃、そういう条件に合うような所に、あの種の像が出現するわけだろう。ただし、これを種蒔く人になぞらえ、それを自分達の生活に結びつけ、役立てるというのは、するどい感覚と熱い信仰がなければ出来ることではない。「種蒔き爺さん」はそういう微妙な自然と人間――われわれの祖先――との合作で生れたものに外ならない。

ともあれ、この姫川上流、北安曇野盆地は、白馬岳の「代馬」を中心として、北に乗鞍、大日の二体の「種蒔き爺さん」、南に鑓大圏谷の双鶏、鶴首などの雪形に囲まれた、特異の山岳景観をもつことがわかった。雪形の名どころ多しといえども、これにわずかに比肩できるのは、地蔵岳の農牛、白峯の農鳥、富士の豆蒔き小僧、などに囲まれた、甲府盆地くらいのもので、それも雪の量、雪形の集約的美観において、この代馬盆地(かりにこう呼ぶ)の右に出るものではなかろう。