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やまのじんせい

山の人生

柳田 国男

山の人生「アサヒグラフ 第四巻第二号~第五巻第七号」朝日新聞社、1925(大正14)年1月7日~8月12日<br>山人考「大正六年日本歴史地理学会大会講演手稿」1917(大正6)年11月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,022 字 · 226 页

青空文庫

餅を搗いて臼ながら猿に負わせたり、臼を卸さずに藤の花を折らせたり、いろいろと無理な策略をもって相手を危地に陥れた話であるが、地方によっては瓢箪と針千本とを、親から貰い受けて出て行ったことになっているのは、すなわち蛇神退治の古くからの様式で、猿の方にはむしろ不用なことであった。変化か混同かいずれにしても、竜蛇の婿入の数多い諸国の例がこれと系統の近かったことだけは察せられるので、ただ山城蟹旛寺の縁起などにおいては、外部の救援が必要であったに反して、こちらはかよわい小娘の智謀一つで、よく自ら葛藤を脱しえた点を、異なれりとするのみである。

大和の三輪の緒環の糸、それから遠く運ばれたらしい豊後の大神氏の花の本の少女の話は、土地とわずかな固有名詞とをかえて、今でも全国の隅々まで行われているが終始一貫した発見の糸口は、衣裳の端に刺した一本の針であった。ところが後世になるにつれて、勝利は次第に人間の方に帰し蛇の婿は刺された針の鉄気に制せられ、苦しんで死んだことになっている例が多い。糸筋を手繰って窃かに洞穴の口に近づいて立聴きすると。親子らしい大蛇がひそひそと話をしている。