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やまのじんせい
山の人生
柳田 国男
山の人生「アサヒグラフ 第四巻第二号~第五巻第七号」朝日新聞社、1925(大正14)年1月7日~8月12日<br>山人考「大正六年日本歴史地理学会大会講演手稿」1917(大正6)年11月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,022 字 · 226 页
火と物音にさえ警戒しておれば、平地人の方から気がつく虞はないからであります。
山男・山姥が町の市日に、買物に出るという話が方々にありました。果してそんな事があったら、衣服風体なども目に立たぬように、済ましてただの田舎者の顔をするのだから、山人としては最も進んだ、すぐにも百姓に同化しうる部類で、いわば一種の土着見習生のごときものであります。それ以外には力めて人を避けるのがむしろ通例で、自分の方から来るというはよくよくの場合、すなわち単なる見物や食物のためではなかったらしいのです。しかも人類としては一番強い内からの衝動、すなわち配偶者の欲しいという情は、往々にして異常の勇敢を促したかと思う事実があります。
もっとも山人の中にも女はあって、族内の縁組も絶対に不可能ではなかったが、人が少なく年が違い、久しい孤独を忍ばねばならぬ際に、堪えかねて里に降って若い男女を誘うたことも、稀ではなかったように考えます。神隠しと称する日本の社会の奇現象は、あまりにも数が多く、その中には明白に自身の気の狂いから、何となく山に飛び込んだ者も少なくないのですが、原因の明瞭になったものはかつてないので、しかも多くは還って来ず、一方には年を隔てて山中で行逢うたという話が、決して珍しくはないから、こういう推測が成立つのであります。