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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

07 第七分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页

青空文庫

「中国へ出陣すれば、またいつの日帰るとも知れぬ。では久しぶりに御内方と共にいただこうか」

と望んだところから、出立を間際にして、急にこういう団欒になったのであった。

光春の夫人は、妻木主計のむすめである。光秀の家庭は子沢山で有名なものだが、光春と夫人の妻木氏のあいだには、八歳になる乙寿丸しかない。

老人としては、叔父の長閑斎光廉がいる。洒落な老人で、ことし六十七になるが、病も知らず、冗談ばかりいって、いまも乙寿丸をそばに置いてからかっていた。

この気さくな老人のみは、始終、にこにこしていて、明智一族の今ぶつかっている暗礁も知らず、春の海をゆく船に老いの余生を託しきって、しかも安心しぬいているような姿なのである。

「賑やかで、もうわが家へ帰ったようなここちがする。老人、この杯を、光忠にやってくれ」

光秀は、二、三献すごしたそれを、手近な光廉入道にわたすと、光廉はそれを、傍らにいる甥の明智次右衛門光忠にわたした。

光忠は八上の城主で、きょうここへ会したばかりである。三人従兄弟のうちではいちばん年下であった。

「ありがたく戴きました」

光秀の前へ進んで、光忠は杯を返した。