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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

07 第七分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页

青空文庫

それは決して、光秀が欲している、言下の然諾を、巧く交わそうとしたのでもないし、また、彼の胸底を見ぬいていながら、わざと空とぼけたわけでもない。

彼にはまだ、未練があった。どうかしてこの人を、そんな暴挙と不徳の思い立ちから引き戻したいと希う――最後の望みを捨てきれなかったのである。

が、光秀のまなじりは、彼のそのことばによって、なおさらこめかみの青い筋と結ばるばかりになった。

「……お汝。それをわしに問うのか」

声も常ならずかすれがちに、

「安土退去このかた、光秀の胸に怏々として霽れやらぬものあることを、お汝としたことが、察してはいなかったのか。――左馬介」

「ほぼお察しはしていました」

「然らば何で……。何も、多言は要しまい。いやか、応かでよろしい。まずその返辞からさきに聞かせい」

「殿」

「…………」

「殿――」

「…………」

「あなた様こそ、何でお口を結ばれておられますか。かりそめにも、ここの御一言は、明智一族の浮沈にはとどまりますまい。事天下にかかわりましょう。あなた様とて、はっきりお答えください。殿!」

「なにか」

「どう遊ばしました。あなた様ともあるお方が……」