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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

07 第七分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页

青空文庫

「やはり右府様の仰せられたように、異教のことも、噛んで吐き出す、で宜しいのではないかと思われます。いや唯今、そう、ふと覚りました」

「それよ。それ」

信長はわが意を得たもののごとく、転じてその眼を宗室へ、

「案じるな、大きく掴め。いにしえ、道真公が、和魂漢才と唱えて、時人の弊風と、遣唐使の制を戒めたことがあるが、唐風の移入も、西欧の舶載も、春なれば春風の訪れ、秋なれば秋風の湿り、この国の梅や桜の色は変らぬ。むしろ池水に雨が注げば池を新たにする。――本能寺の濠を以て海洋を測るから間違ってくる。そうじゃないか、宗室」

「いや、分りました。まこと、濠は濠で」

「海の外は、海の外よ」

「老ゆれば、いつか島井宗室も、濠の蛙となりましたかな」

「どうして、そちは鯨だ」

「いや、とんと、眼幅の狭い鯨ではありました」

濠ということばから思い出されたか、気がつくと、伽藍の天井高く、夜気は更けて、遠くに、濠の蛙の声がする。

「誰ぞ、白湯を持て」

うしろに居眠っている小姓へいいつけて、信長はなお夜に飽かない顔をしていた。もう食べもせず飲みもせず、夜噺の興があるだけだった。

「お父上」

信忠は、膝を辷らしかけて、