轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

07 第七分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页

青空文庫

「あ、お袖が濡れまする」

「お水をおかえいたしましょう」

小姓たちは恐懼して、ひとりは慌てて信長のうしろからその白綾のたもとを持ち、またひとりは水を汲みあらため、さらに一名は手ぬぐいを捧げてその足もとにひざまずく。

ときを同じゅうして、侍部屋の人々も、宿直の間を立ち、御殿の妻戸を開けているかのような気配だったが、折ふしはるか表御堂の方にあって、ただならぬ物音がしたと思うと、遠くからこの奥殿へ向って、だ、だ、だ、だっと烈しい跫音がとどろいて来た。

信長は、鬢の毛のしずくもそのままきっと振り向いた。そして、

「見て来いっ。坊丸」

と、性急に命じてから、その後で、手にしている布で面をつよく拭きこすっていた。

「表御堂の御番衆が、争いでも起したのでございましょう」

そのときもう彼の後ろへ来て侍列していた山田弥太郎、今川孫二郎、薄田与五郎などは、問われるともなくこう答えたが、信長は否ともいわず頷きもしなかった。そしてその眼は一瞬、深淵の水にも似て、外へ求める光よりも、彼自身の内に澄んで、自身の記憶の中のものを探し求めるかのように耀いていた。

それは実に束の間であった。