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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

07 第七分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页

青空文庫

「きのうきょう。頻りに信長公が死なれたという噂があるが、実否如何であるか」

小田原の北条家から彼へこう訊ねて来たのが、十一日のことだったとあるほどゆえ、以ていかに関東方面の報道は遅鈍なものだったかがわかる。

要するに、駅伝よりも、それら武将間の早打よりも、民衆の耳から耳への沙汰がいちばん迅速だったのである。

一益の場合は、その動きのつかなかったことも、恕さなければならなかった点は多い。

上州は新領地だった。そしてまた彼が赴任したのも日が浅い。殊に、小田原の北条というものは到底ふだんでも安心していられる存在ではない。

だから彼は、変を聞いても、動かなかった。いや動き得なかった。――にもかかわらず北条は、月の中旬には、

「事を成すは今にある」

となして、上州高崎の境へたいして侵略を開始していた。

同時につい先頃、織田軍によって、武田そのものをも跡かたもなく攻め潰した甲州方面でも、物情騒然、蜂の巣をついたような妄動があらわれ出した。固守、攻略、合流、分離の争乱が随所に起った。

それらの新領地におかれていた蘭丸の兄の森長可も、河尻秀隆も、毛利秀頼も、いずれはみなこの大地震にも似た地表の変動にその位置を失い、戦歿、流亡、惨たる末路にただよった。