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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

07 第七分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页

青空文庫

如何なる変が待ちうけておるやも測られませぬゆえ」

すると家康は笑った。

「いや、いまの取次の容子では、そんな憂いはない。もし異変を知って帰って来た物見なれば、必定、その血相は取次に移り、取次の語気は、またその凡ならぬものをこれへ移して来たであろう。いまの小姓の気ぶりでは、問わずとも、さしたる異常のないことを無言にも語っておる」

数正は赤面した。同じ気持であった他の宿老は、救うように、話題をほかへ紛らした。

「いったい、光秀ほどの者が逆意を仕果して、それが天下に容れられるものと思っておるのであろうか」

家康は黙って、聴く立場を取った。家臣の評も概して一般と異ならないものだった。何よりは光秀が君臣の道義を破壊した点をみな非難した。

「殿のお考えは」

終りに榊原康政が問うた。ほかの家臣も、主人の光秀観を知りたい態であった。

「一言にいえば、光秀はあの賢才を抱きながら、いつのまにか、たった一つの美徳を心に失っていた」

家康はそう前提して、

「謙虚を失っておる」

と、いった。

康政が、かさねて、

「けれど、日向守には平常もずいぶん慇懃な方で、人いちばい謙虚に見うけられましたが」