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にっき

日記

宮本 百合子

15 一九二九年(昭和四年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 79,482 字 · 160 页

青空文庫

新潟からまたたびの漬けたのを貰った時母が「よくしまったとき。これは猫がすきで、一里四方の猫がよって来るって云うそうだ」その時漠然気味悪さを感じた。だが――可笑しい、猫が青い葉をすくなんて。

青いものがすくないロシアの猫らしいと思って自分は一種の滑稽を感じ笑った。

数日後、箒をもってマーシャが室掃除に来た。四十にならないのに彼女の髪は半白だ。彼女は十人の子供を生んだ。八人が大腸カタルや気管支カタルで死んだ。彼女の亭主は酔っぱらいさえしなければいい職工だ。背の高い几帳面なマーシャは箒で長椅子の下をはき出し乍ら、胡麻塩猫が彼女にくっついて来た。

――バルシク、何がほしいね、と猫に話しかけた。

――バルシク? 彼なの、この猫。

――ええ、彼ですさ。

――私は又雌かと思ってた。

――いいえ、彼ですよ、ね、バルシク、この猫は手術を受けたんですよ。その前は太ってころころしてたんだが痩せちまった。それにこの猫は男の跫音が迚もやり切れないんですよ、男の跫音がする、もうその辺に尻尾の先だって見えやしない。

――こわいの?

――そうなんでしょう。

――でも何故手術したのさ、病気?

――いいえ、ほら、ほかの猫と歩きまわらないように……