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にっき
日記
宮本 百合子
15 一九二九年(昭和四年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 79,482 字 · 160 页
状態に戻ったのを発見した。ひどく苦しかった時は勿論、少しよくなってから、自分はこの病室の内で適切に云えば三尺と六尺の bed の上の生存に一種調和した感情をもって暮した。日常の些事が静に主体的に精神に映って来て、かすかなる楽しささえあった。
大分よくなって歩き出したらこの消極的調和は破れた。生活力と生活への翹望が室――病院そのものから溢ランした。私は窓に立って春が来、既によごれ初めた雪道を歩く人々を眺めた。実際もう戸外は春だ。石炭をつんだ橇、馬の鼻息は白いが、キラキラする日光で馬の前髪につけた小さい赤い飾が花のように見えた。不安な、動揺が心と体のうちにあった。今日は調和がわるい、忽ち私の精力は寝台の上に居心地よくはまるスケールに縮小してしまった。再び些事が自分の興味を捕え始めた。
一向おめでたくはない平和。
◎三月近い病床生活で、この平和の研究が大分出来た。人間が如何那消極的圏境でどんな平和を保ち得るかということ。自分には一寸面白い実感であった。
古田大次郎という人が「死の懺悔」を書いた。若いテロリストが牢で死刑執行前まで書きつづけた感想録の一部だ。