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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页
が、そう云う風になって来るとそれが又ナオミには気に入りません。
「男のくせに台所なんぞ働かなくってもいいことよ、見ッともないわよ」
と、そう云うのです。
「譲治さんはまあ、年が年中同じ服ばかり着ていないで、もう少し気の利いたなりをしたらどうなの? あたし、自分ばかり良くったって譲治さんがそんな風じゃあやっぱり厭だわ。それじゃ一緒に歩けやしないわ」
彼女と一緒に歩けなければ何の楽しみもありませんから、私にしても所謂「気の利いた」服の一つも拵えなければならなくなる。そして彼女と出かける時は電車も二等へ乗らなければならない。つまり彼女の虚栄心を傷けないようにするためには、彼女一人の贅沢では済まない結果になるのでした。
そんな事情で遣り繰りに困っていたところへ、この頃又シュレムスカヤ夫人の方へ四十円ずつ取られますから、この上ダンスの衣裳を買ってやったりしたらにっちもさっちも行かなくなります。けれどもそれを聴き分けるようなナオミではなく、ちょうど月末のことなので、私のふところに現金があったものですから、尚更それを出せといって承知しません。
「だってお前、今この金を出しちまったら、直ぐに晦日に差支えるのが分っていそうなもんじゃないか」