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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页
、ところどころに、御座船のような古風な船が浮かんでいます。
「どう? あたしの見立ては巧いでしょう?」
ナオミは両手にお白粉を溶き、まだ湯煙の立っている肉づきのいい肩から項を、その手のひらで右左からヤケにぴたぴた叩きながら云いました。
が、正直のところ、肩の厚い、臀の大きい、胸のつき出た彼女の体には、その水のように柔かい地質が、あまり似合いませんでした。めりんすや銘仙を着ていると、混血児の娘のような、エキゾティックな美しさがあるのですけれど、不思議な事にこう云う真面目な衣裳を纏うと、却って彼女は下品に見え、模様が派手であればあるだけ、横浜あたりのチャブ屋か何かの女のような、粗野な感じがするばかりでした。私は彼女が一人で得意になっているので、強いて反対はしませんでしたが、この毒々しい装いの女と一緒に、電車へ乗ったりダンス・ホールへ現れたりするのは、身が竦むような気がしました。
ナオミは衣裳をつけてしまうと、
「さ、譲治さん、あなたは紺の背広を着るのよ」
と、珍しくも私の服を出して来てくれ、埃を払ったり火熨斗をかけたりしてくれました。
「僕は紺より茶の方がいいがな」