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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页
十一
綺羅子は半ば呆れたように、半ば蔑むような眼つきでナオミの顔を偸み視ながら、何処までも「まあ」の一点張りでした。
十一
「さあ、譲治さん、ワン・ステップよ。踊って上げるからいらっしゃい」
と、それから私はナオミに云われて、やっと彼女とダンスをする光栄を有しました。
私にしたって、きまりが悪いとは云うものの、日頃の稽古を実地に試すのはこの際でもあり、殊に相手が可愛いナオミであってみれば、決して嬉しくないことはありません。よしんば物笑いの種になるほど下手糞だったとしたところで、その下手糞は却ってナオミを引き立てることになるのですから、寧ろ私は本望なのです。それから又、私には妙な虚栄心もありました。と云うのは、「あれがあの女の亭主だと見える」と、評判されて見たいことです。云いかえれば「この女は己の物だぞ。どうだ、ちょっと己の宝物を見てくれ」と大いに自慢してやりたいことです。それを思うと私は晴れがましいと同時に、ひどく痛快な気がしました。彼女のために今日まで払った犠牲と苦労とが、一度に報いられたような心地がしました。
どうもさっきからの彼女の様子では、今夜は己と踊りたくないのだろう。