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ちじんのあい

痴人の愛

谷崎 潤一郎

「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页

青空文庫

「擽っているんじゃないんだよ、こんなに砂が附いているから、払ってやっているんじゃないか」

「ついでにそれを舐めちゃったら、パパさんになるぜ」

そう云ったのは関でした。つづいてどっと四五人の男の笑い声がしました。

ちょうど私の立っている場所から沙丘がだらだらと降り坂になったあたりに、葭簀張りの茶店があって、声はその小屋から聞えて来るのです。私と小屋との間隔は五間と離れていませんでした。まだ会社から帰ったままの茶のアルパカの背広服を着ていた私は、上衣の襟を立て、前のボタンをすっかり篏めて、カラーとワイシャツが目立たぬようにし、麦藁帽子を脇の下に隠しました。そして身を屈めて這うようにしながら、小屋のうしろの井戸側の蔭へついと走って行きましたが、とたんに彼等は、

「さあ、もういいわよ、今度は彼方へ行って見ようよ」

と、ナオミが音頭を取りながら、ぞろぞろ繋がって出て来ました。

彼等は私には気が付かないで、小屋の前から波打ち際へ降りて行きました。浜田に熊谷に関に中村、―――四人の男は浴衣の着流しで、そのまん中に挟まったナオミは、黒いマントを引っかけて、踵の高い靴を穿いているのだけが分りました。