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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页
ナオミを「偉くすること」と、「人形のように珍重すること」と、この二つが果して両立するものかどうか?―――今から思うと馬鹿げた話ですけれど、彼女の愛に惑溺して眼が眩んでいた私には、そんな見易い道理さえが全く分らなかったのです。
「ナオミちゃん、遊びは遊び、勉強は勉強だよ。お前が偉くなってくれればまだまだ僕はいろいろな物を買って上げるよ」
と、私は口癖のように云いました。
「ええ、勉強するわ、そうしてきっと偉くなるわ」
と、ナオミは私に云われればいつも必ずそう答えます。そして毎日晩飯の後で、三十分くらい、私は彼女に会話やリーダーを浚ってやります。が、そんな場合に彼女は例のビロードの服だのガウンだのを着て、足の突先でスリッパをおもちゃにしながら椅子に靠れる始末ですから、いくら口でやかましく云っても、結局「遊び」と「勉強」とはごっちゃになってしまうのでした。
「ナオミちゃん、何だねそんな真似をして! 勉強する時はもっと行儀よくしなけりゃいけないよ」
私がそう云うと、ナオミはぴくッと肩をちぢめて、小学校の生徒のような甘っ垂れた声を出して、
「先生、御免なさい」
と云ったり、