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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页
「ふん、それじゃ一番復讐戦をしてやるかな。―――なあに、真面目でかかりゃお前なんかに負けやしないんだが、相手が子供だと思うもんだから、ついつい油断しちまって、―――」
「まあいいわよ、勝ってから立派な口をおききなさいよ」
「よし来た! 今度こそほんとに勝ってやるから!」
そう云いながら、私は殊更下手な手を打って相変らず負けてやります。
「どう? 譲治さん、子供に負けて口惜しかないこと?―――もう駄目だわよ、何と云ったってあたしに抗やしないわよ。まあ、どうだろう、三十一にもなりながら、大の男がこんな事で十八の子供に負けるなんて、まるで譲治さんはやり方を知らないのよ」
そして彼女は「やっぱり歳よりは頭だわね」とか、「自分の方が馬鹿なんだから、口惜しがったって仕方がないわよ」とか、いよいよ図に乗って、
「ふん」
と、例の鼻の先で生意気そうにせせら笑います。
が、恐ろしいのはこれから来る結果なのです。始めのうちは私がナオミの機嫌を取ってやっている、少くとも私自身はそのつもりでいる。ところがだんだんそれが習慣になるに従って、ナオミは真に強い自信を持つようになり、今度はいくら私が本気で蹈ん張っても、事実彼女に勝てないようになるのです。