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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
安倍は何か納得出来なかったのだ。才あるこれからの男は求めて埋もれて了うに堪えられなかった。我が身が気の毒であった。今は蒼ざめた昂奮が噴きあげるようであった。すべての道を阻んでいるのは阿賀妻一人のような憎悪をさえおぼえた。
安倍は説得しなければならぬ異常な熱意に駆られ、ぎらぎら目を光らした。
「それは不可んでしょう」と彼はどなった。
心理的な不平であったものがその刹那、動かすことの出来ぬ反対の条件のように思われた。下級武士の気持にもっとも近い存在として、それに支持されたものとして、一度は衝突しなければならぬものが遂に来たと思った。阿賀妻の捉みどころのないものの考え方にはしっとりした一片の人情もないと見究めた。自分はそうではない、と思うと、つねづね、なにかそぐわなかった阿賀妻の言動が今こそあばかれたと考えるのだ。彼や、彼の身近かなものが、よりより月旦したようにあの男の底も見届けたといきまいた。信頼は彼の家柄がさせるものであった。こういう独断的な先達者にひきまわされることは、求めて破滅の道に駈けだしている迂濶千万なことであった。自分のためではない――と、彼は内心ではげしく叫んだ。