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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
九
多分彼女はそこで、内らの気配に立ちすくんでいたのであろう。呼ばれて自分を取りもどした。彼女はすべてを察し、上りばなで小田原提灯に灯を入れていた。
九
馴れている大野順平は夜道のためにたいまつを持っていた。ガンビの白い樹皮をまるく巻きあげ、先端から火を焚くのである。まっ黒い油煙をあげる毒々しいほどの赤い焔が、濃厚な樹脂に執拗にしがみついて離れなかった。吹きおろす夜風も受けながしていた。たかだかとそれを捧げ、彼は先頭を、その堂々とした体躯でくら闇を押し割って歩いていた。
「苦労はたえぬものじゃ」
戸田老人は駈けだして、炬火で一服すいつけてそう云った。
お引取り下さいというのを、彼はつよく拒んで連れ立って来た。忠実に自分の気持に仕えているに過ぎないのだ。そしてここに、トウベツ探険のときの同勢がそろったということも、彼にとっては楽しい因縁であった。玉目三郎はどうなったか。あの折の彼の代りに安倍誠之助がうしろに跟いて来ている。その男は阿賀妻と並んで歩いている。羽織のすそに提灯を包んだ阿賀妻は、あかりを安倍の足もとに流してやりながら、思いだしたように彼の家庭についてたずねるのであった。