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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

そのとき彼はそう見究めをつけた。

「心配するな、おやじさん」と彼は受けあった。

そうですか――そう云うふうに、駈けつけて来た使者は深い奥まった黒い眼をおどおどさせた。それはクシュンコタンの酋長チコヒロであった。日本名を知古広と称してながい馴染なのだ。彼らにあっては、和人に従うことは、代々の宿命のようなものになっていた。藩吏が来たり、幕吏が来たり、最近はこの堀盛などと顔見知りになったが、いずれも和人にはちがいなかった。政府がどうあろうと人間は同じなのだ。従って意志はたやすく通じた。

その土地をわれから棄てて引きあげねばならぬのが堀盛らの政府であった。硬論を期待した新たな長官の黒田清隆も、現地を一目見て抱負を投げだした。――この調子で行けば完全に占領されるのに三年とはかかるまい、むしろ日本は、カラフトをすてて北海道をかためるに如かず、と、彼は中央に復命した。

だが遺された土人はどうなるのだ?――はるばる駈けつけて来たアイヌらは、生れながら日本の人間と思っていたというのに、あの緋ラシャのダン袋服を着た夷人が乗りこんで来た。家を毀されたり、家財を奪われたり、あわてふためいて駈けつけて来たのだ。