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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

租税収入を考慮に入れても兵備に費す余裕はなかった。屯田兵の制定はまだ一歩も進んでいない有様だ。だから、つい手近な士族たちに堀大主典の目が行ったのも無理はない。

むろんそれは、クシュンコタンに――ロシヤはそこをコルサコフと呼んでいた――突如として暴動したというロシヤ兵の姿が直接にはおびやかしていたとも云える。それに、何分とも彼も疲れはてていた。

「船はオダルで待っている、間もなく夜が明けるじゃろう、これから直ぐに行って貰えるか?」

堀はふりかえって、追求するように相手の顔を見つめた。

安倍誠之助は口ごもった。

「なにしろ早急のことで――」と大野順平が取り傚すためにおもい口を利いた。

「そうかね」と堀は云った。唇をひん曲げて出した言葉にちがいない。そんな冷い声で彼は云いつづけた、「この一刻に、占領されたとしたらどうなるんだ――と、それほど切迫した事態であっても、おぬしらは、女房、子供、どうのこうの、と――これだから、旧幕時代のものは仕末にこまる」

彼に従っている連中は、咳ひとつしなかった。

船はどしんと岸に着いた。

彼らはうたたねから揺り起されたように、急にもぞもぞと動きだした。